わが国のNGOによる国際歯科保健医療協力活動の実態と
活動指針に関する調査
深井穫博1)、鈴木基之1、2)、夏目長門1、3)、黒田耕平1、4)、原田祥二1、5)、
森下真行1、6)、有川量崇1、7)、眞木吉信1、8)
1)歯科保健医療国際協力協議会、2)昭和大学歯学部歯周病学講座、3)愛知学院大学歯学部
口腔外科第二講座、4)神戸生協協同歯科、5)原田歯科、6)広島大学大学院医歯薬学総合研究科
病態情報医科学講座、7)日本大学松戸歯学部衛生学講座、8)東京歯科大学衛生学講座
目 的
歯科保健医療は、う蝕や歯周病に代表される口腔病を対象としたものであり、これらは個人の生活習慣に強く影響される疾患である。そしてこの生活習慣は、社会経済的要因としての都市化や国レベルで提供される保健情報など健康に関わる環境に左右される。現在の口腔保健の世界的な状況をみると、先進工業国においては口腔病が減少傾向にある一方で、開発途上国では逆に増加するという実態がある。さらには、途上国における歯科医師など口腔保健要員の不足によって、先進国と途上国との間の健康較差はますます広がる状況がある。このなかで、わが国の歯科保健医療の専門家が途上国での協力活動を通して、世界レベルでの健康の公平性(health equity)の達成に寄与する場面は多い。しかもこれらの活動を通して得た経験は、わが国における歯科保健医療の展開や人材育成にも極めて有用であり、そのための情報の蓄積が求められる。
そこで本調査では、現在、歯科保健医療の分野で国際協力を行っているわが国のNGOの活動内容を調査し、その結果を各団体および関係者が共有することで、各活動団体の情報交流と連携をさらに推進することを目的とした。
対象および方法
「歯科保健医療国際協力NGOダイレクトリー2002年版(歯科保健医療国際協力協議会発行)」を基に、全国の関係団体に郵送法による質問紙調査を行った。調査時期は、2003年6月~7月である。調査項目は、団体名、代表者、事務局所在地、設立年度、設立目的、事業内容、活動対象国、会員数、予算規模、海外協力団体など20項目である。「ダレクトリー2002版」に記載された団体は、北海道ブータン協会、ミャンマー臨床歯学協力会 、南太平洋医療隊、国際口腔医療協力センター、歯科医学教育国際支援機構、スリランカの子供たちを斑状歯から守る歯科医師の会、東京歯科大学国際医療研究会、日本大学松戸歯学部国際保健部、東京医科歯科大学歯学部NGO、神奈川海外ボランティア歯科医療団(KADVO)、梅本記念歯科奉仕団、 アジア歯科保健推進基金 (AOHPF)、 日本口唇口蓋裂協会、AGUDAA-V-フィリピン 、新世代のアジア、オペラシオン ユニ、南太平洋に歯科医療を育てる会 、守口ロータリークラブ、V.S.O.G(ボランティアサービスオーラルグループ)、カンボジア医療協会基金、日本モンゴル文化経済交流協会、奈良県カンボジア医療協力基金、日本青年会議所、ザ・トゥース・アンド・トゥース、日本歯科ボランティア機構、ネパール歯科医療協力会の28団体である。このうち、守口ロータリークラブと日本青年会議所の2団体については、上記の他の団体に参画しての活動であるので、今回の対象からは除外し、その他の26団体について分析した。また、回答事項で不十分な箇所については、再度の問い合わせを行うかインターネット等を用いて確認した。
結果および考察
1.各活動団体のプロフィール
26団体の所在地は、北海道から九州までの13都道府県であった。その内訳は、北海道(2団体)、埼玉県(2団体)、千葉県(2団体)、東京都(4団体)、神奈川県(2団体)、長野県(1団体)、愛知県(5団体)、三重県(1団体)、大阪府(3団体)、奈良県(1団体)、岡山県(1団体)、広島県(1団体)、福岡県(1団体)であった(図1)。活動の開始時期として、設立時期をみると、1950年代が1団体、1980年代が2団体、1990年代が16団体、2000年以降が7団体であった。活動期間は、5年未満が7団体、5年以上10年未満が10団体、10年以上15年未満が7団体、15年以上が2団体であった(図2)。NPO法人として認可された団体は4団体であり、学生団体は2団体であった。
2.各団体の会員数
今回の対象のなかには、会員制度を持たない団体もあったが、把握された会員総数は、9,412名であった。
3.活動対象地域
国際協力活動の対象国として、複数の国で活動している団体は10団体であり、14団体は1つの国に限定した活動であった。対象国総数22カ国であった。その内訳は、フィリピン(4団体)、インドネシア(2団体)、東チモール(1団体)、カンボジア(7団体)、ミャンマー(6団体)、ベトナム(6団体)、タイ(5団体)、ラオス(4団体)、バングラデッシュ(2団体)、スリランカ(1団体)、ネパール(3団体)、ブータン(1団体)、モンゴル(3団体)、中国(2団体)、韓国(1団体)、ロシア(1団体)、トンガ(2団体)、バヌアツ(1団体)、ソロモン(1団体)、キューバ(1団体)、メキシコ(1団体)、チュニジア(1団体)という結果であった(図3)。多くの対象国はアジア諸国であり、なかでもカンボジア、ベトナム、タイの3カ国では5団体以上の活動がみられた。
4.活動内容
各団体の活動内容をみると、現地に行って日本人が歯科治療を行う協力活動が最も多く、15団体で取り組まれていた。また、唇顎口蓋裂手術など口腔外科に関わる治療協力が2団体であった。現地の歯科医師研修や大学での講義など教育支援を行っているのは9団体であった。医療保健器材の供与は7団体でみられた。フッ化物洗口など学校歯科保健にかかわる活動を行っているのは5団体であった。また他の項目としては、学生などを対象としたスタディーツアー、歯科保健関係者に限らず広く相手国との親善・交流を図る、一般住民を対象としたヘルスワーカー育成、全身的な健康に関わる支援活動などがいくつかの団体でみられた。各活動内容が、団体によって異なるのは、その国の歯科疾患罹患状況や医療環境など相手国側の問題と、活動期間やマンパワーなど協力側の要因によるものであると考えられた。
結 論
調査結果から、わが国NGOで歯科保健医療の分野で国際協力を行っている団体は、1990年代以降増加している傾向がみられた。今回の調査対象である26団体をみると、その対象地域はアジアを主体とした22ヶ国であった。活動内容は、歯科治療を中心としたものが最も高い割合を示したが、その他にも歯科保健医療に関する専門家研修と技術移転、ヘルスケアのためのプロジェクト開発と住民支援、地域保健開発と資金提供など多岐にわたるものであり、相手国側と協力側の要因を併せた事業選択が行われていた。しかし、これらの個々の活動に関する情報交流の機会は少なく、今後、各団体の情報交換と活動指針の共有のためのネットワークづくりを推進することがさらに求められる。
研究協力者(本研究者以外の歯科保健医療国際協力協議会役員)
時田信久(南太平洋医療隊)、河野伸二郎(神奈川海外ボランティア歯科医療団KADVO)、澤田宗久(ジャパンデンタルミッション)、柴田享子(DHネットワーク)、田中健一(中国北京天衛診療所)、阿倍 智(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科大学院)、小原真和(有夢会)、菊池陽一(宮城県伊具郡開業)、白田千代子(東京都中野区北部保健福祉相談所)、沼口麗子(ネパール歯科医療協力会)